Eat A Peach Story

第一話

 桃の栽培をはじめて20年近くが過ぎました。好きではじめた仕事ではありませんでした。どちらかというと、果物も特に好きというわけでもありませんでしたね。農業を職業として選択せざるを得ない状況に陥りまして、換金作物として桃がいちばん当時有望かなと、思って桃を10a程植えてみたのです。桃くり3年とか言いますが、本当に桃は実をつけるのが早くて、確かに3年目にして自分の植えた桃を見ることが出来ました。

 5年、6年経ちますと木も充実して参りまして、その桃の木につけた実はなんともいえぬ、豊な美しさと言いますか芸術的でさえあるような、天然の魅力というのか(そういえば、桃はどこかエロティックな感じがしませんか?)とにかく労が報われたような、職人になったような、うん、充実感、喜びなどを不覚にも感じてしまったのです。それから、次々と新しい苗を植え夢中で育て生産、出荷に明け暮れ、あっと言う間に今日に至ってしまいました。

 
桃というのは、開花から収穫までの期間がその固体の重量の割に短い果物です。特に収穫前の10日程の肥大率は本当に驚くほどです、それに収穫直前まで肥大は続き、糖度の上昇も続くのです。しかし、その熟度を見誤って収穫適期を逃すと軟化が始まり、糖度は引き続きある程度上昇しつづけますが、日保ちが悪くなります。商品として市場を通り、小売を通して消費者に渡るときには商品価値は無くなります。

所謂、小売の段階で言うという「店保ち」(たなもち)が悪いという結果になります。つまり桃の場合、樹上完熟はおいしいのですが出荷する上で敵熟とは言えません。もちろん早もぎ(収穫)はもっと悲惨です、大根みたいなとか、市場で言うコンクリートに落として試食する等というような結果になります。

そのデリケートさ、難しさ故に、生産する上で、こだわりが生まれます。天候に左右されながら、外観、味、日保ちこの三拍子をそろえて製品とすることが、金銭など二の次で、作る事を夢中にさせます。農作物は何でも同じかもしれませんが、「たかが桃されど桃」と言いたくなるような価値が私にはあります。そんなこだわりを、生産者の思いを、食べ物の一つの価値として消費者の方にも評価してもらいたい。


 
そんな毎日を、妻と二人で悪戦苦闘をしつつ10数年。当時私は、農協の共販出荷を行なっていました。100戸以上ある桃生産農家の品物を統一規格で選荷して市場出荷するのです。現在の量販店(スーパー等)主体の小売形態ですと、取引の物量的意味で圧倒的に有利だからです。しかし、100戸以上の農家で生産、各々の規格に対する解釈で生産者本人が選荷、箱詰めをして出荷する形態を採っていた為、どうしても品物にバラツキが出て仕舞います。もちろん共選所へ持ちこみ、農協の指導販売担当が検査員と也、全ての製品を開封のまま検査をするのですが、完全な規格統一は難しいものがありました。

 同レベルの生産技術、同一の価値観、優良産地(ブランド)を築く為の意識を持つのは、この形態では達成出来ないであろうと思われました。(少数の任意組合なら、それも可能ですが) 当時、部会役員だった私は、部会長の機械重量選荷機の導入案に賛成しました。これは生産者が収穫用コンテナのまま選荷場に持ちこみ、共同で生産者及びパートで選荷、箱詰めするシステムです。選荷機自身の価格が何千万、それを入れる施設が億単位の設備です。
選荷機は従来の生産者自身に依る、手詰め選荷よりも遥かに速く、箱詰めが出来るメリットが有ります。
しかし、私が注目したのは他人による客観的な選荷です。此れにより手詰めに依る、能もない選荷(やたら高品質)、そこそこの選荷(上の中)、なんとかならんけの選荷、おざっぱに言うとこの3段階のバラツキガ解消されると思ったのです。しかし、実際にはそんなに甘い物ではありませんでした。個体その物が違うのです。
つまり、収穫したコンテナのまま持ちこまれる桃その物が千差万別で、選荷員による客観的な判断も難しいのです。

野菜と違って、果物の場合大きさや形状、傷だけでは仕分ければ良いという物ではありません。一番重要なのは
です。日保ちももちろん考慮した上での、完熟収穫という表現より、適熟収穫というべき品物が望ましいのです。しかも、品種によって天候によってその時期は変わります。
今では、適熟収穫という言葉が、生産者サイドの雑誌(業界誌みたいなもの)では良く見かけるようになりましたが、10年近く前までは、完熟という言葉がもてはやされました。桃のメイン品種の劇的な交代時期で、若木のうちは小さいが、比較的置ける、収穫を慌てないという頃の話です。市場にも硬て小さい桃が溢れていました。

我が家の、出荷ケースには、適熟出荷と書いてありますが、その当時そんな言葉は聞いたこともなかったはずです。今では盛んに適熟収穫、適熟出荷と言われるようになりました。その頃、ビールのCMで「ビール工場できたて出荷」とかいうのがあって、それをパクッた記憶があります。(女房に何それと言われた)もしかして、ひょっとすると私が適熟出荷のコピーの発案者かも・・・・。

このような収穫の難しさを共選に求めるには時期尚早だと思われ、自分の主張を押し通す自信も無く、明確な流通のニーズを知る為もあって自分だけの出荷を始めました。

以上のような経緯で始めた個選出荷ですが、もちろんそのリスクは大きく、万が一失敗したらと思うと、それこそ夜も眠れませんでした。

しかし、幸運にも我が家の小さな荷が、市場の大量の荷の中で最初から良い評価を頂けたのは、ある一人の果物担当者との出会いがあったからです。 

                                         ・・・・・つづく  

  continued





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